子どもの健康情報
【気になる子どもの病気】
麻疹(ましん・はしか)について
感染拡大を止めるため、大人も子どもも 予防接種を!
まなこどもクリニック 院長 原木 真名 先生
日本は、2015年にWHOから麻疹排除宣言をうけました。しかし、毎年のように、麻疹の流行のニュースがきかれます。これは、どうしてでしょうか。
海外では、麻疹が流行している地域が数多くあります。たとえば、フィリピンでは2019年1月~2月の2か月で、麻疹により70人が死亡したそうです(多くは4才以下の乳幼児)。今年は世界的に麻疹の流行が大きいとも報道されています。海外への人の往来に伴い、麻疹も日本に入ってくるのです。
日本国内では今年(2019年)、8月現在で600人超の麻疹患者が発生しています。この数年の年間発生数をはるかに超えており、注意が必要です。
近年では、海外からの旅行者が持ち込んだ麻疹が沖縄県で流行し、100人超の麻疹患者が発生した例、ワクチンをうけない人が多い宗教団体の研修会で麻疹が集団発生し、40人以上の麻疹患者が発生した例などがあります。
麻疹の症状
麻疹は、まず、咳と鼻水、発熱から始まります。40度近い発熱が一週間近く続きます。眼脂(めやに)も多くみられます。
はじめのうちは発疹はみられず、普通の風邪との区別が難しいです。2~3日間、このような状態が続いたあと、顔や身体に発疹が出てきます。
発疹がでる少し前に、ほおの内側の粘膜にコプリック斑と呼ばれる白い発疹がでますが、24時間ほどで消失します。
合併症がおこらなかった場合には、発疹が出て3~4日、熱の出始めから7日程度で解熱します。
発疹は色素沈着を残すのが特徴で、熱が下がっても、何となく黒ずんだあとがかなり長く残ります。
▶▶合併症 … 脳炎
最もこわい合併症です。
麻疹の脳炎は、麻疹患者1000人に1人の割合でおこるといわれています。麻疹の経過中、多くは発疹期に意識障害、けいれんなどがおこります。死亡率は非常に高く、後遺症を残すことも多いです。
その他に、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という、じわじわと忍び寄るこわい脳炎もあります。
麻疹のウイルスが脳の中に残っていて、麻疹の後数年して(平均7年)行動異常や知能低下などの症状が出てきます。
ワクチン未接種の乳児や免疫抑制剤を使っている人が麻疹に感染して発症するケースが多いです。
症状は進行性で、致死率が高いです。麻疹に罹患した人の数万人に1人発症します。
▶▶合併症 … 肺炎
間質性肺炎といって、レントゲンをとると肺が真っ白になっていることがあります。もともと気管や肺が弱いお子さんなどでは、呼吸困難をおこし、死に至ることもあります。
▶▶合併症 … その他
麻疹には、細菌感染が合併することが多いです。肺炎、中耳炎、副鼻腔炎などです。
麻疹ウイルスの感染によって、免疫力が低下しているため、重症化します。免疫力の低下はかなり長く続きます。
治療方法は?
麻疹のウイルスを抑える薬は、現在も開発されていません。2次感染を治療するために抗生物質、脱水を治療するために点滴等が行われます。肺炎、脳炎になってしまった場合は、その状態に応じて、生命を維持するための治療が行われます。
もし、ワクチンをうけていない人が麻疹患者と接触してしまった場合、麻疹のワクチンを72時間以内にうてば、発症予防ができるかもしれません。
また、γグロブリンという、成人の血液から抽出した抗体を、接触後72時間以内に注射すると、発症予防、軽症化が期待できます。発症してからも、軽症化させるため、γグロブリンを注射することがあります。しかし、γグロブリンは血液製剤なので、他の未知の病原体の感染がありうるという欠点があります。
予防はできるの?
麻疹ウイルスは感染力が非常に強く、予防接種以外に有効な予防方法はありません。
定期の予防接種は、1歳と、幼稚園・保育園の年長さんの2回、接種します。
ただし1歳前であっても、乳児期から保育園などの集団生活に入る場合や、地域で流行して感染が非常に心配される場合には、生後6か月からワクチンの接種をする場合があります。
大人でも、ワクチンを2回うけていない人たちは、麻疹に罹患するリスクがあります。実際、今年の麻疹患者の約70%が20才以上の成人であり、麻疹はいまや大人の病気なのです。
麻しんにかかっていなくて、ワクチンを2回うけた記録が確認できない方は、ワクチンをうけるか、または、抗体検査で麻疹抗体を持っているかどうかを確認しましょう。(抗体を持っていても、ワクチンをうけることは問題ありません)
麻疹にかかった、ワクチンをうけたはず、と「記憶」していても、実際には違う場合があります。「記録」が残っていない場合には、抗体検査で確認する必要があります。
麻疹を日本から撲滅しよう! とにかくワクチンを2回!
麻疹は、本当にこわい病気です。高熱が一週間以上も続き、発疹で顔がむくみ、咳もひどくて大変です。
患者さんのお母さんたちは、皆さん口をそろえて、『本当に死んでしまうかと思いました』とおっしゃいます。実際、1000人に1人は命を落とす病気といわれています。
ワクチンをうける前の乳児や、妊婦さんなどが感染すると、さらに大変なことになります。
以前、保育園の保育士さんが麻疹になり、子どもたちへの感染が危ぶまれた例があります。麻疹にかかると、自分が大変な思いをするだけでなく、周囲に麻疹をひろげてしまうことにもなるのです。
すべての人が、麻疹のワクチンを2回うけること。これが達成されれば、日本国内の麻疹撲滅を達成することができ、日本の子どもたちを麻疹から守ることができます。
来年は、東京オリンピック・パラリンピックで、多くの人が海外から来日します。麻疹が日本に入ってくることも考えられます。
日本での流行をくいとめ、ワクチンをうけていない小さな命を麻疹から守るために、1人でも多くの人がワクチンをうけることが大切です。
<2019年9月発行「ちばエコチル調査つうしんVol.15」より転載>