キット先生の豊かな心をはぐくむ子育て<第20回>
「ちばエコチル調査つうしん Vol.25」(2024年9月発行)より一部改変して掲載)
思春期の子どもとの関わり方
思春期になるとどうなるの?
子どもの変化に対応するのは難しいものです。でも、成長し続ける子どもは変化し続けます。成長は喜ばしいのに、変化をどう受け止めるかには迷いや困難があります。
さて、クイズです。あなたは、思春期に起こる子どもの変化についてどのくらい理解がありますか?
思春期理解度クイズ
❶思春期には、第【 】次性徴により身体の変化が現れる。
❷思春期の変化は、だいたい【 】歳頃から(早い子では8歳頃から)徐々に起こり始める。
❸思春期の変化は、脳からの指令によって【 】が分泌されることで起こる。
❹思春期の身体の変化は急激に始まるので、体調や気持ちが【 】になる。
❺思春期の子どもがイライラしたり悩んだりするのは【 】である。
いかがでしょうか?
正解は、 ❶ 【二】 ❷ 【10】 ❸ 【性ホルモン】❹ 【不安定】 ❺ 【当然(当たり前)】 です。
思春期は身体だけでなく気持ちにも大きな変化があり、子どもがそんな変化に対応する難しさを大人が理解しておくことは大切です。
Rくんのお話です。 小学校5年でニキビが出るようになりました。第二次性徴を迎えると、肌の脂分が増えてニキビが出やすくなるのです。本人にはイヤなものでしたが、さらに、クラスの何人かの女子からニキビのことをからかわれたりするようになりました。
思春期の不安定な気持ちに対応する前にイヤな出来事が続き、Rくんの不安定さはさらに強くなっていきました。自分を否定的に考えるようになり、周りとうまく付き合えなくなって、乱暴な行動や不適切なお金遣いが目立つようになりました。 残念なことに周囲の大人は、そういうRくんをしかったり説教したりするだけでした。思春期の変化を受け入れうまく対応するのは、本人も周りの友人や大人にとっても難しいということを教えてくれるエピソードです。
思春期の子どもは、自分の身体に起こる変化を受け入れる過程で、今まで形成された自分が壊れていくように感じるかもしれません。実際、思春期は、いわば「新しい自分をつくっていく」時期なのです。
心理学者エリクソンは、青年期の課題は「アイデンティティの確立」であると言っています。逆に言えば、青年期に「自分はこういう人間だ」という安定した自己像を持てるようになるまでは、「疾風怒涛(しっぷうどとう)」の時期を過ごすのです。
思春期を「疾風怒涛」と呼んだのは、アメリカの心理学者ホールです。思春期を「ストーム(嵐)とストレス」の時期とし、3つの特徴をあげています。「親との葛藤(かっとう)」、「情緒不安定」、「リスク行動」の三つです。
そして、青年期を「一つの新たな誕生」と意義づけました。
また、思春期は異性に対する興味関心の高まりから、人との付き合い方にも悩みます。
筆者がオーストラリアにいた頃、周りの人に性教育について聞いてみたところ、男の子には父親が、女の子には母親が、家庭で性について教える、ということでした。日本でも親子で話すというご家庭もあるでしょう。でも一般的にはどうでしょうか?
近年の子どもは、身体の成長・発育の加速現象により思春期の発現が早まってきています。理性的に判断する脳の部分である前頭葉の発達は二十代半ばまでかかることを考えると、子どもが思春期の自分の変化に戸惑い理性的に対応できないとしても、それは無理もないことなのです。大人の適切な支援が必要です。
保護者の皆さんは、子どもの変化が理解できないと悩みます。時には腹が立ちます。信頼関係が壊れたように感じる場合もあります。
大切なのは、子どもが自分自身を作り直している時期を尊重することです。新しい自分を作ろうとしている子どもにどう対応するか、どう応援するか、子どもの思春期は親の力量が試される時期でもあります。
そこで、まずできることは、子どもの気持ちを理解しようとする姿勢を示すことです。戸惑いながらも自分探しをしている子どもの人生の大切な時期に寄り添いましょう。
ある中学校の校長先生の言葉です。
「思春期の子どもの反抗に向き合える親であること」
子どもに向き合い、気持ちを理解しようとしていることが子どもに伝わるように、これまでも紹介してきたスキルを活用してみましょう。
思春期の子どもと関わるポイント
1 傾聴スキル
「そうなんだ」「大変だよね」などの相づちの言葉とともに、〝真剣に聞いている〟と伝えられる表情やしぐさを示します。よい言葉が浮かばなくても、表情やしぐさで、聞いていると伝えられます。
2 共感スキル
行っていたことをいったん止めて、子どもに向き合います。うなずく、目を見る、笑顔や困惑といった表情で、子どもに共感していることを伝えます。
3 ありがとうを言う
機会をみて「ありがとう」を言います。子どもの言葉や行動に、感謝する機会を見つけましょう。思春期の子どもとの関わりの中で、感謝を見つける力が試されます。
4 励ます
自分の思春期や青年期に体験した大変だったこと、失敗したけれど何とか乗り越えた、あるいは、そこから学んだ経験などを話すのは、励ましになります。
5 共有する時間をつくる
大人になった子どもと一緒に過ごす時間を想像してください。一緒に取り組めること、楽しめることはどんなことでしょう。少しの時間でもいいので、一緒に楽しく過ごす時間を考えて実践してください。
6 問題行動、危険な行動には、すぐに対応する
問題行動には結果が伴います。危険な行動は命にかかわります。やめるようにきっぱり言うとともに、どうすればいいかを話し合う時間をとります。
すぐに対応するためには、日ごろから子どもの変化を見極める力を養っておくことや、子どもの様子を教えてくれる人たちとのネットワークが必要です。どうしていいか悩んだら信頼できる周囲の人に相談したり、専門家に支援を求めるなどして、すぐに対応しましょう。