エコチル調査とは、子どもたちが健やかに成長できる地球環境を未来に残すため
環境省が2011年から実施している大規模調査です

遊ぼう 学ぼう

キット先生の豊かな心をはぐくむ子育て<第6回>
 「ちばエコチル調査つうしん Vol.11」(2017年9月発行)より一部改変して掲載>

たくましい子どもに育てたい 「レジリエンス」を育てる環境


たくましさとは何でしょうか?
心理学では、困難に出会ってもへこたれないたくましさを「レジリエンス」と呼ぶことがあります。  誰もが少なからずもっている力ですが、家庭環境や社会環境で育ついろいろな力がレジリエンスを育むといわれています。

子どもの力は、環境の中で育ちます。例えば、知能テストで測定されるIQについての研究でも環境要因が大きく影響することがわかっています。
ある児童養護施設から別の施設に移り、よりよい世話を受けた子どもたちのIQが増加したということが報告されています(スキールズ, 1966)。
それでは、子どもの発達によい環境とはどういう環境でしょう?

この連載の第一回で、がんばれる子になるためには、そのためのエネルギーをチャージできる「安全基地」、つまり、安心できる温かな環境が必要というお話をしました。
子どもは探索行動によってこの世界に適応していきますが、探索するには、その勇気を支える環境が必要です。
そこで、子どもの発達に役立つ環境はどういうものかを考えるヒントをご紹介します。
オーストラリアで作られ世界の子育てに役立っている「トリプルP(ポジティブ・ペアレンティング・プログラム)」が提唱する「トリプルP:前向き子育て」(サンダース)の5原則です。

1.安心できると探検できる
一つ目は、危ないものを子どもの生活場面から片づけたり隠したりすることです。
今の環境を見渡してください。「そこはダメ」、「さわってはダメ」と、どのくらい言っていますか? そういう制限が少ないほど、子どもの探索行動は広がります。
子どもの知りたいという気持ちと行動を大切にする環境は、安全で安心できる環境です。

2.注目して意欲を育てる
二つ目は、子どもが何かをしようとしているとき、チャレンジしているとき、言葉やしぐさ・表情で応援していることを伝える環境です。
何かの行動を身につけることは学習であり、注目はその行動を強化(増やす、強くする)します。 「大丈夫だよ、やれるよ、失敗してももう一度やればいい」と応援して、子どもの学ぶ意欲を育てましょう。

3.一貫していることの意義
親は、子どもがこの世界でうまくやっていけるように、好ましい行動ややめるべき行動、言葉遣いなどを教えます。 この原則三では、子どもに教えることが一貫していることを大切にします。 例えば、することと、してはいけないことが時によって違っていたり、周りの大人がそれぞれ違うルールを教えたりすると、子どもはどれを守るのかわからなくなり、困ります。 子どもにとっては、いつも同じ基準のルールや指示であるほうが守りやすいでしょう。 一貫した対応は、何を期待されているのか学ぶ力を育てます。そしてやがては、どうすればいいのか自分で考えられるようになるのです。

4.ピグマリオン効果
四つ目は、期待に関する原則です。
「ピグマリオン効果」という「人間は期待された通りに成果を出す傾向がある」ことを検証する実験が行われたことがあります(ローゼンタール, 1964)。
サンフランシスコのある小学校で、「成績が伸びてくる生徒を割り出すための検査」として、知能テストが行われました。
そして学級担任には、「検査の結果、今後数ヵ月の間に成績が伸びるのは、この生徒たちであるという結果が出た」と報告されます。
すると、その生徒たちは確かに成績が向上していきました。
しかし実は、そのテストに特別な意味は何も無く、成績が伸びるとされた生徒たちは、無作為に選ばれただけだったのです。
つまり、学級担任が、成績が伸びるとされていた生徒たちに対し期待のこもった眼差しを向けていたこと、さらに、生徒たちの方も期待されていることを意識したために成績が向上していったと言われています。
この実験結果には批判もありますが、人が周りの期待に応えようとするのは理解できます。
ただし、不適切な期待では子どもの意欲を損なったりストレスになったりするでしょう。
上手に期待することで、育ってほしいと願う方向に子どもが力を伸ばしていく応援をしたいものです。

5.ちょっとゆっくりする
最後の原則五は、子育てをする自分を認め、大切にするという原則です。
自分を認める言葉を心の中で言う、ほめる、自分にごほうびを準備する、時にはゆっくりしたひとときを過ごす。完璧な子育てはないので、ちょっとした失敗を責めない。
また、自分を大切にするためには、サポートが必要です。話を聞いてくれる、子どもをちょっと預かってくれる、相談できる、そういうサポーターはいますか?
友人や知り合い、家族や親戚に頼るのが難しいときは、行政の機関やサポートセンターを利用しましょう。
少しでも楽になり、余裕をもつことで子どもによりよく応答できるようになれば、そんなあなたが子どもにとって良い環境になります。


五つの原則はいかがでしょう?
すぐに取り組めること、取り組んでみたいことはどれですか?
あなたが子どもにとって一番の環境なら、どんな環境でありたいでしょう?
子育ての五原則は、親の力を育てる原則でもあるといえます。
実際に取り組み、子育てという大きなチャレンジを切り抜けていくと、あなた自身の「レジリエンス」も大きくなっていきます。
たくましい子どもを育てたい願いを実現するために、自分の「レジリエンス」を育てましょう。

ページトップへ