子どもの健康情報
受動喫煙による健康被害について
国立病院機構 下志津病院 小児科医 鈴木 修一 先生
2020年の東京オリンピックを前に、受動喫煙防止条例の報道を目にすることが多くなりました。
自分で喫煙しなくても、他人の吸うタバコの煙を吸う受動喫煙にも体に影響があることは、申し上げるまでもないかもしれません。
タバコの煙はフィルターを通して吸い込まれる「主流煙」と、燃え端より発生する「副流煙」に分けられます。タバコの煙は数千種類の有害物質を含み、主流煙よりも副流煙の方が高い濃度となります。
たとえば、副流煙のジメチルニトロソアミンという発がん物質の濃度は、主流煙の20倍以上です。
タバコの煙の多くは2.5μm以下のとても小さい粒子(PM2.5)であり、肺の奥まで到達しやすく、一部が体内に取り込まれて全身に悪影響を及ぼします。
大人以上に深刻な子どもたちの健康被害
多くの研究をまとめると、子どもは受動喫煙により気管支炎や肺炎、中耳炎、気管支喘息の発症率が1.5倍から2倍程度高まると考えられます。
2014 年、日本では年間70名の乳児が受動喫煙による乳児突然死症候群で死亡したと推定されました。
喫煙する妊婦より生まれた子どもは注意欠陥多動性障害などの発達や行動の問題を抱えやすく、学童期以降に肥満や心血管系の病気になりやすいことが明らかとなっています。
タバコの曝露量に安全域はないため、子どもを受動喫煙から身を守るには室内を終日禁煙とし、屋外でも喫煙者から離れる心がけが必要です。
空気清浄機も加熱式タバコも、害は無くせない
日本禁煙学会が示した非喫煙家庭内のPM2.5濃度は17μg/m3ですが、喫煙家庭では47μg/m3であり、アメリカ環境保護局が「子どもなどの弱者に危険」と定めた40μg/m3以上に相当します。
換気扇の下での喫煙では、煙の多くが室内に残ります。
空気清浄機でも有害物質を取り除くことは困難です。
完全禁煙ではない飲食店内のPM2.5濃度は200~800μg/m3、車内で喫煙すると1000μg/m3以上にもなるといわれます。
加熱式タバコは、タバコの葉を数百度まで加熱しニコチンを気化するものであり、吸った人の口元より2000μg/ m3程度のPM2.5が吐き出されます。
法的規制が整うまでは、副流煙から子どもを守るために声を上げなければならないことも多いかもしれません。
そんな苦労がなくなる日が早く来ることを祈りながら、診療や研究を続けています。
※暴露(ばくろ)…有害物質や細菌・ウイルスなどにさらされること。または、さらすこと。
<2018年3月発行「ちばエコチル調査つうしんVol.12」より転載>