キット先生の豊かな心をはぐくむ子育て<第16回>
「ちばエコチル調査つうしん Vol.21」(2022年9月発行)より一部改変して掲載)
困難に立ち向かう力を育てたい
サポートネットワーク
以前は、「持ちつ持たれつ」という言葉をよく耳にしたものですが、このごろはあまり聞かなくなったようで気になっています。
私たちの生活は「相互依存」で成り立っていると言えます。〝お互いに頼りにし合う〟社会、家族、人間関係は、当たり前で素敵です。
社会で生きていく時に頼れる人がいると、多くの場面で助かります。また、頼りにしてくれる人がいると、自分が何かの役に立っているという有能感が生まれ、自信を持てます。それなのに「持ちつ持たれつ」が難しくなってきているのは、他者に頼らず自分でがんばる方が評価されるようになっているからでしょうか。
今、「サポート資源認知(自分を助けてくれる人や所を知っている)」や「サポート希求(助けを求める)」の力が注目されています。
日本の子どもたちを対象にした私たちの研究では、これらの力は、レジリエンス(困難を跳ね返す力)やウェルビーイング(幸福・福利)に関係していることがわかっています。
今回は、子ども自身が自分のレジリエンスやウェルビーイングを高めていく方法を考えます。それにはまず、サポート資源認知、つまり〝自分を助けてくれる人や所を知っていること〟が大切です。
子どもたちは、困った時や不安な時にどう対応しているでしょうか? どうすれば良いのかわからず、気持ちが落ち込んだり、やる気がなくなったり、ストレスが高くなって泣いたりわめいたりするかもしれません。
そんな時、誰に、もしくはどこに助けを求めれば良いかを知っておくと対応につながります。自分をサポートしてくれる人を知っておくこと自体がメンタルヘルスの向上に役立つという研究結果もあります。
〝サポートチーム〟 をつくろう
紙を1枚用意し、真ん中にお子さんの名前を書きます。
お子さんが助けを必要とする場面(家で、学校で、遊んでいる時、など)を想定し、場面を決めます。そして、決めた場面で利用できるサポート資源を記入します。
(主に周囲の人ですが、交番などの機関や、鉄道の忘れ物検索のようなシステムも含みます)
次のようにお子さんに問いかけながら、一緒にやってみましょう。
❶ 宿題がわからなかったら誰が助けてくれるかな?
❷ 学校でお腹が痛くなったら誰が助けてくれるかな?
❸ 友だちと出かけた先で忘れ物をしたら誰が助けてくれるかな?
❹ 街で迷子になったら誰が助けてくれるかな?
子どもたちは、何人くらいのサポーターを答えられるでしょうか?
❶の場面では、お兄さん、お父さん、お母さん、お友だち、塾の先生、など。
❷では、担任の先生、保健室の先生、お友だちなど。
❸では、一緒に行った友だち、忘れ物検索など。
❹では、交番、携帯電話で連絡できるお家の人など。
子どもが自分のサポート資源に気づいているかどうかを確認しましょう。答えられないようなら、一緒に考えて書いていきます。
以前、小学校一年生の子どもたちとサポートチームをつくる活動を実施していた際、一人のお子さんが「助けてくれる人が誰もいない」と言って教室を飛び出してしまったことがありました。
担任の先生に連れられて席に戻ったそのお子さん(仮に「Aさん」と呼びます)に、まず、担任の先生が、「先生がAさんのサポートチームに入っていいかな?」と言いました。すると周りの子どもたちも「Aさんのサポートチームに入る」と言い出しました。さらに、校長先生や保健室の先生もサポートチームの一員であることをAさんは確認することができました。
「誰も助けてくれない」と思って暮らしていくのは大変辛いことです。この活動での気づきが、少しでもお子さんたちの生きやすさにつながればと願いました。
(※サポートチームをつくる活動は、じっくり話し合える時間にやってみましょう。)
次に、サポート希求(助けを求める)の練習もしてみましょう。
人に何かを頼むのは難しいことかもしれません。子どもたちが、必要に応じて助けを求められるように練習しておきます。
「どんな場面で困っていて、誰に助けを求めるか」という場面設定はお子さんに提案してもらえると良いのですが、難しい時は相談して決めましょう。
ロールプレイで練習をしよう
お子さんには、まず、助けを求められる側の誰かの役をしてもらいます。そして、子ども役になった大人の声かけからスタートします。
困っていることや、やって欲しいことを短いセリフで言います。それができたら、役を交代します。
子ども役 : 〇〇さん、お願いがあります。
〇〇さん役 : どんなことですか?
子ども役 : 算数の宿題が難しくて困っています。教えてくれますか?
〇〇さん役 : はい。いいですよ。
終わったら、ロールプレイができたことを褒め、良かったところを言います。
(たとえば、「丁寧に言えましたね」など)
次に、気をつけた方が良いことを言います。
(たとえば、「下を見て言っていたから、次は、相手の人の目(顔)を見て言えるといいね」など)
これは実際に必要なスキルですから、困りそうな場面を想定して練習しておくこともできます。たとえば、外出先で災害が起こってしまった場面などです。
「自然災害に対応する訓練」と考えると、家庭での取り組みはなかなか難しいことかもしれません。ですが、サポートチームづくりのゲームとして、その時に助けてくれる人や場所、デジタル機器機能などを書き出してみるのは、一つの訓練になるでしょう。
学校で災害が起こった場合を想定し、先生、学校の避難先、公衆電話、スマートフォン、家族への連絡方法など、具体的なサポート資源を知っておけば、いざという時に役立ちます。
サポートネットワークの知識は、子どもが困難に立ち向かう力を育てます。
また、この練習の過程で、自分も誰かのサポーターになれることに気づきます。その気づきは子どもの自信となります。
一人でがんばって困難を乗り越える力も大切ですが、私たちにとって助け合う力はとても重要です。