子どもの健康情報
起立性調節障害(きりつせいちょうせつしょうがい)
まなこどもクリニック院長 原木 真名 先生
起立性調節障害とは?
起立性調節障害は、自律神経系の調節がうまくいかなくて起こる体調不良です。思春期で急激 に身長が伸び、ホルモンの変化も生じる時期によく起こります。 小学校高学年から中学生くらいの年齢の子どもたちに多く発症し、中学生になると1割程度にみられると言われています。女子の方が男子より多いです。(男子1に対して女子は1.5~2) 自律神経の働きが不調になると、様々な症状が出現します。
症状
立ちくらみやめまいが起こります。他に、失神、動悸、頭痛、腹痛、倦怠感、乗り物酔い、などの症状が見られます。重症だと倦怠感が強く体を起こすことができなくなることもあります。症状が多彩なのが特徴で、「不定愁訴(ふていしゅうそ)」と言われます。
日内変動
(同じ日でも時間帯によって症状の程度が変化すること)朝は体調が悪くて起きられず、午後になると体調が回復してくることが多いのも特徴の一つです。 そのため「学校に行きたくないから体調不良だと言っているのかも」「サボっているのでは」などと受け止められがちです。 夜眠れず、昼夜逆転の生活になってしまうこともあります。朝起きられないため、学校に行きにくくなります。半数程度が不登校を合併しています。
原因
人が起立すると血液は重力のために下半身に移動します。 また下半身に血液が貯留するため心臓に還る血液量が減少します。通常は、これを防ぐために交感神経が働き、血管収縮がおこり、血圧が維持されます。 ところが、起立性調整障害では、起立直後に活発化するはずの交感神経が作動せず、血圧が低下したままになります。(下図の右)
一方、心臓は血圧を維持するために心拍数を増加させ、起立中に頻脈を起こします。 そのため、脳や体への血流が低下し、ドキドキするなどの様々な症状が起こります。 そこに、水分の摂取不足、心理社会的ストレス(体調が悪いのに登校しなければならないという心理的圧迫も含む)、日常生活の活動量低下からくる筋力低下、生活習慣の乱れ、遺伝的素因などがからみあい、状態は増悪していきます。
診断
貧血や甲状腺機能などの血液検査、MRIやCTの画像診断など、一般的に行われる体の検査で異常がないことをまず確認します。その上で、以下の症状のうち、3つ以上、あるいは2つ以上でも症状が強ければ起立性調節障害を疑います。
起立性調節障害を疑った場合には、「新起立試験」を行います。
新起立試験は、安静時の血圧・心拍数と、起立して1分後・3分後・5分後・7分後・10分後の血圧・心拍数を測定します。その結果から、以下のどのタイプであるかを診断します。
(1) 起立直後性低血圧(軽症型、重症型)
起立直後に著しい血圧低下が起こり、回復に時間がかかる
(2) 体位性頻脈症候群
起立後の血圧低下はないが、心拍数が異常に増加する
(3) 血管迷走(めいそう)神経性失神
起立中に急激な血圧低下が起こり、意識が薄れたり失神したりする
(4) 遷延性(せんえんせい)起立性低血圧
起立直後は問題ないが、起立したままでいると徐々に血圧低下が進み、失神する
治療
特効薬は残念ながらありません。基本は自分でできる治療(セルフケア)を中心とし、薬物療法を併用します。投薬で簡単に解決する疾患ではないので、起立性調節障害や不登校に理解があり、気長に付き合ってくれる主治医をさがすことが必要です。
サポート
お子さんが、朝起きられず、学校に行かれなかったのに、夕方になって元気になってきて、ゲームやスマホに興じていたりすると、家族はどうしてもイライラしてしまいます。でも、今具合が悪いのは、だらだらと怠けているのとは違い、体が成長していく過程で自律神経のバランスが崩れてしまったためで、「現在調整中」と考えましょう。
学校に行かれないことなどを周囲が責めてしまうと、本人はますます不安を抱え、ストレスが自律神経の回復を遅らせることもあります。改善するために、できることを一緒に見つけることが大切です。
朝は布団の中で横になったまま薬を飲み、体を動かしてから起きる。朝日を浴びられるようにカーテンを開ける。学校と相談し、遅刻しても登校しやすい体制を整える。学校に行かれなくても、日中は横にならずに体を起こしておくようにする等々…。これらには、ご家族と学校の理解と協力が欠かせません。
軽症だと、数か月で日常生活に戻れますが、数年続くことも珍しくありません。学期替わりなどのストレスで再発することもあります。気長に寄り添い、サポートしていくことが必要です。
<2023年3月発行「ちばエコチル調査つうしん 22号」より、一部改変して掲載>