子どもの健康情報
川崎病について
千葉大学大学院 医学研究院公衆衛生学 准教授 尾内善広 先生
増え続けている患者数
今回は、「川崎病」という日本に多いこどもの病気についてお話をさせていただきます。
まず、川崎病という病名ですが、これはこの病気を見つけた小児科医、川崎富作先生の名前に由来しています。川崎先生は千葉大学のご出身ですので、千葉とも縁の深い病気です。
1960年台に川崎病が知られるようになった頃から現在まで毎年この病気になる人の数は増え続けていて、最近では年間16,000人ぐらいが川崎病を発症しています(図1)。
川崎病には男の子の方がなりやすく、1.4倍くらい数が多いです。生後半年ぐらいから見られ、1歳前後に最も多くなります(図2)。
そこから徐々に減っていきますが、10歳ぐらいに発症することもあります。割合でいうと川崎病に最もなりやすい5歳までの10万人あたり300人位です。
できるだけ早い治療開始が大切
症状は、①5日以上続く発熱、②両側の眼の充血、③唇やのどが赤く腫れ、舌の表面がいちごのように赤くなる、④体に発疹がでる、⑤手や足が固く腫れたり、手のひら、足の裏が赤くなる、さらに後になって指先から皮が剥ける、⑥首のリンパ節が腫れる、が主なものです。
この6つのうち5つ以上の症状を満たすと川崎病と診断されます(図3)。
発熱から始まることが多いので、初めは風邪かと思って様子を見ているうちに症状が揃ってきて川崎病を疑われる、というパターンが多いです。
これらの他にも例えば胆嚢が腫れてお腹を痛がったり、BCGを接種してからの経過が長くなければ、接種の痕が赤くなったりすることもあります
これらの症状は全て、小さな動脈(酸素や栄養を全身の臓器に送る血管)の壁が炎症を起こした結果現れているものです。そして、多くは数週〜1ヶ月の間に自然に治まってしまいます。
ですが、困ったことに、なにもしないと20%〜25%の患児に心臓の冠状動脈という大切な血管に瘤(りゅう)などの後遺症が出来てしまうので、できるだけ早く炎症を抑え、後遺症が残らないように治療が行われます。
瘤は自然に縮小することも多いですが、中が血液の固まりで詰まってしまい、命に関わることがあるので、瘤が出来た場合は、退院後もお薬を長期間服用しながら注意深くフォローすることになります。
治療はアスピリンという解熱鎮痛剤の内服とガンマグロブリンという献血から作られた製剤を点滴で注射する方法の組み合わせが最も標準的で、効果をみながら治療を追加したり別の治療に切りかえたりします。
冠状動脈に瘤ができ始めるのは10日目前後が多いと言われていますので、それより前に治療を開始して炎症を抑えることがとても大切です。
特に5歳以下のお子さんで熱が続く時には、もしかしたら川崎病かも、と一度は先ほどの症状を思い出して頂きたいと思います。
解明されていない発症の原因
なぜ炎症が起きるのか、つまり川崎病の原因が何なのか、残念ながら分かっていません。
過去に3回(1979, 1982, 1986年)全国規模で大流行があったり(図1)、小さな流行が地域を移動するように起こることもあるのでウィルスや細菌といった病原体の感染が関係していると予想されていますが、まだ特定できていません。
川崎病になる人の数は増え続けていて、同じく増えている喘息やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患のように環境の変化も関係している可能性も考えられています。
もしかしたら川崎病だと診断された時点では、体内では検出できないレベルまで病原体の数が減ってしまっているのかもしれません。
あらかじめ川崎病になる可能性が極めて高い人達を見分けることができるようになれば、生後1~2年ぐらい注意深く観察することで初期の川崎病を捉えることも可能になり、原因に迫れるようになると思います。
<2016年2月発行「ちばエコチル調査つうしんVol.8」より転載>