キット先生の豊かな心をはぐくむ子育て<第8回>
「ちばエコチル調査つうしん Vol.13」(2018年9月発行)より一部改変して掲載>
思いやりの心を育てたい 「やさしいタッチ」
学校の成績などではかることのできる力を「認知能力」といいます。
それに対し、「思いやり」などは「非認知能力」といい、認知能力を支える、つまり学びを支える大切な力といわれています。
でも、そういった理屈以前に、私たちはその大切さを知っています。「思いやり」は子どもに育てたい力の一つです。
「思いやり」を育てる方法はいくつかあるでしょう。
まず、お家でできるのは、「モデリング」です。保護者の皆様が「思いやり」の行動や言葉を毎日の生活の中でモデルとして示すことで教えることができます。
たとえば、元気のない人に「どうしたの?」「だいじょうぶ?」という思いやりの言葉がけをすると、それを見た子どもは、元気がない人に対してそういう言葉をかけるでしょう。
ふれ合いから生まれる幸せ・愛情・絆ホルモン
もう一つ良い方法があります。今回のスキルである「やさしいタッチ」です。
まず、心理学の研究からお話ししましょう。
身体の「ふれ合い」は心によい影響を与えることがいろいろな研究で分かっています。その一つが、身体的なふれ合いによって「オキシトシン」という物質が分泌されることです。オキシトシンの働きで、信頼感や愛情が生み出されるというのです。
ですから、オキシトシンは「幸せホルモン」「愛情ホルモン」「絆ホルモン」と呼ばれることがあるようです。
人に関わろうとするやさしい気持ちを導き出す、つまり、思いやりを生み出すオキシトシンは、手でふれるとき、ふれられるとき、ふれた人にも、ふれられた人にも、分泌されます。
ふれ合う形は様々です。
ある研究で、ベビースリング型の抱っこ紐を1歳児の親子間の絆が弱い親子に配布したところ、83%の親子間で強い絆が築かれていたのに対し、配布されなかった親子間では38%となり、著しい差が見られたそうです。
抱っこによるふれ合いでオキシトシンが高い状態になったからであると説明されています。
ラットの実験では、1分間に約40回のやさしい軽いタッチを行うと、血圧の低下や、ストレスホルモン値の低下、他者との関わりの増加(社会性の向上)、学習効率の向上などの効果が確認されています。
この実験でわかるのは、オキシトシンの分泌を促すのには、特にやさしく一定のリズムでふれ合うスキンシップが良いということです。
母親が子どもを寝かしつけるときに、背中や胸を「トントン」軽くたたくのも、落ち込んだ親友を慰めるときに肩や背中を軽くたたくのも、同じ効果を及ぼしていると思われます。
思いやりの心が学習やストレス対応をサポート
子どもに与えるオキシトシンの効果は3つあるようです(山口創,2018年)。
1、ふれる人との愛着関係が強まる
子どもとふれ合うと、子どものオキシトシンが増えるだけでなく、あなたのオキシトシンもたくさん出るのです。
2、学習能力(記憶力)が高まる
オキシトシンが出ると一時的な記憶を蓄えておく機能が高まり、記憶力がアップします。また心身がリラックスするため、目の前のことに集中できるようにもなります。
3、ストレスに強くなる
心拍数や上昇した血圧を低下させたり、不安や恐怖をやわらげて安らぎの感情を高めたりする働きもあるため、ストレスがあっても落ち着いた状態でいられるのです。
思いやりの心が育つと人とのつながりが強くなり、そのつながりは、学習やストレス対応をサポートするのでしょう。
今、どのくらいお子様に「やさしいタッチ」をしていますか?
年齢にもよるでしょう。大きいお子様には難しいかもしれません。身体的接触が苦手な人もいます。
はじめは、指でそっと体のどこかにふれてみるのもいいかもしれません。少しずつふれるレベルを上げていけるのではないでしょうか。
ハグ、マッサージ、手をそっと肩や腕に置くなどのタッチの効果も報告されています。
ご自分にも、お子様にも、気持ちのいい、やりやすい、お気に入りの方法を見つけましょう。
いろいろなふれ合いの形の「やさしいタッチ」で、思いやりの心を育てましょう。