キット先生の豊かな心をはぐくむ子育て<第5回>
「ちばエコチル調査つうしん Vol.10」(2017年2月発行)より一部改変して掲載>
子どもの生きる力を育てたい 「学校のテストで測れない力」
私たちにはいろいろな力がありますが、生きる力とはどういう力でしょうか?
親は子どもに「勉強しなさい」と言います。それは、社会に出て困らないようにしっかり力をつけてほしいという親の願いからでる言葉です。
それでは、生きる力は学校の教科学習で養われる力ということでいいでしょうか?
そこで、今注目されている「非認知的能力」という力について考えてみましょう。
知能検査などで測られる能力は「認知能力」と呼ばれ、言語、推理、記憶などが含まれます。
一方、「非認知能力」は、知能検査などでは測れない力です。
どういう力かというと、ベネッセ教育総合研究所『これからの幼児教育』(2015年度春号・夏号)では、次のようにまとめています。
・ 目標を達成するための「忍耐力」、「自己抑制」、「目標への情熱」
・ 他者と協力するための「社会性」、「敬意」、「思いやり」
・ 情動を抑制するための「自尊心」、「楽観性」、「自信」
これらの力は、社会性と情動の力とも言われ、学力にも影響することが指摘されています。
社会でよりよく生きるために学力は必要ですが、学力を支える、または、学力をうまく発揮していくために役立つ力があるのです。
上の例のほかにもいろいろあるでしょう。例えば、まじめさ、責任感、好奇心、想像力、協調性など。そう考えると、子どもはそれぞれすでにいろいろな非認知的能力を持っていると言えます。
そこで、気になるのは、それらの力を、保護者の皆さんはどう評価しているかということです。
ヘックマンというアメリカの経済学者は、これらの力を、社会に高い収益をもたらすものとして高く評価しています。
それでは、これらの力を育てるためにどうすればいいのでしょうか?
まずは、お子さんがもっている非認知的能力に気づいてあげてください。
そして、その価値、つまり、それがどんなにすごい力であり、いかに自分に役立つかを、お子さんにしっかり伝えましょう。
先日、親戚の集まりで食事をしたとき、3年生の男の子の前に座りました。
お鍋からいろいろと取って食べているのですが、その子は、一番好きなものは後で食べるということでした。
お皿の中で、最後まで残っていたのはエビでした。一番好きなものを最後に食べる、つまり「待てる」ということが微笑ましく、「マシュマロ実験」と呼ばれる、ある有名な実験を思い出しました。
マシュマロ実験では、一人の子どもが机と椅子だけの部屋に通され、椅子に座るように言われます。机の皿の中には、マシュマロが一個入っています。
実験者のおじさんは
「ちょっと用ができました。それはキミにあげるけど、私が戻ってくるまで15分の間、食べるのを我慢してたらマシュマロをもうひとつあげるよ。私がいない間にそれを食べたら、二つ目はナシだよ」
と言って部屋を出ていきました。
その結果、待って二つ目のマシュマロをもらった子どもは、参加した4歳児186名のうち3分の1だったそうです。
これはスタンフォード大学で行われた実験で、研究結果として、待てる子どもの力は自制心の強さや集中力として、その後の子どもの社会的な成功に関係すると報告されています。
好物のエビを残していた親戚の子に、
「キミは好きなことを待てる力を持っているんだね。それはスゴイ力なんだよ」
と言って、簡単に実験の話をすると、耳を傾けながら嬉しそうに祖父母や親に笑顔を向けていました。
自制心や集中力につながる力を持っていることはとても素晴らしいことですが、それ以前に、好きなものがあること、それを大事にしていることが、素敵だと思いませんか。
そういうことであれば、好きなものを一番先に食べる子どもの方にも何か大切な力がありそうです。楽しむことができる、楽観性なども素晴らしい非認知的能力です。
子どもがそれぞれ持っている力の価値を見出し、それを生きる力として評価し育み、人生で役立てていくことを応援してほしいと思います。