千葉大学予防医学センター

研究内容

疾患予防医学分野Department of Disease Prevention

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疾患予防医学分野は2025年1月に出来た新しい講座です。肥満とその合併症について、生物学的および社会的な原因および問題点に関する研究を行っています。「肥満」とは体内の中性脂肪への蓄積が過剰となり体重が増えすぎることで、日本では体格指数(体重[㎏]÷身長[m]2)が25以上、欧米では30以上が定義となっています。肥満は身体徴候であり、病気ではありません。肥満に伴い健康障害が起きているか、起きる可能性が高いことを「肥満症」と呼び、治療対象となる「疾患」と考えます。
肥満の原因は食べ過ぎや運動不足と考えられがちですが、体質や幼少期からの環境から、太りやすさや食欲が影響され、その結果として肥満が起きていると考えられます。自己責任と誤解されることで、肥満のある人の社会的不利益が生じ、自尊心の低下や抑うつが生じることが少なくありません。標準体重になることが健康であるという誤った考え方を無くし、合併症の治療のための無理ない減量をするにはどうすれば良いか、様々な体形の人が充実した人生を送るにはどうしたらよいかを考えてゆきます。

1. 肥満によって生じる健康障害と社会的問題の実態調査、および解決方法の探索

「肥満」による健康障害には、2型糖尿病・高血圧・動脈硬化などの他に、呼吸不全、膝関節症、不妊症、精神心理的問題などのあまり研究の進んでいないものがあります(図1)。どのぐらいの体重ならどのような合併症が起きるのかをまず調査し、肥満の合併症であることや治療法を当事者に効果的に伝えることで、生活の質が低下する前に合併症を予防、進展阻止を行う方法を見出します。
「スティグマ」とは「負の烙印」という意味ですが、肥満は自己責任であるという誤解から、差別や偏見が非常に強く、スティグマが存在していることは明らかです。社会に対し、肥満スティグマが大きい問題であるということをアピールし、様々な体形の人が共存できるように社会の仕組みを少しずつ変えてゆくことを目指します。

肥満・肥満症・メタボリック症候群と健康障害
図1 肥満・肥満症・メタボリック症候群と健康障害

2. インスリンの作用機序とその障害、および摂食調節に関する研究

インスリンは栄養を感知し膵臓から分泌されて血糖を低下させるホルモンですが、インスリンは肝臓、筋肉および脂肪組織に働いてブドウ糖を取り込ませるだけでなく、脳にも作用して血糖や食欲の調節にかかわっています(図2)。インスリンがどの臓器にどのように作用して、血糖値や食欲、体重の維持にかかわっているのか、また体質や環境、加齢がどのように影響してこの仕組みが障害され、その結果として肥満や糖尿病が起きるのかを研究します。

視床下部のインスリン作用
図2 視床下部のインスリン作用と抵抗性(https://www.mdpi.com/1422-0067/20/6/1317

3. 身体測定データの電子カルテ記録方法の研究

体重の測定は肥満症診療のみならず診察の基本ですが、必ずしも行われていません。その一因として、電子カルテシステムにおいて体重や血圧・脈拍と言った身体データを記録する仕組みが整っていないことがあります。血液検査データが採取日時と共に自動的に記録され、時系列を表示が出来るのと対照的に、体重や血圧は自動的に測定することが困難で、記載する場所も決まっておらず、時系列の表示も非常に難しいため、忙しい診療の中で軽視され、結果として「血液データだけ見て人を見ない」診療となってしまうことが多いです。身体データをどのようにすれば効率よく経時的に把握できるようになるのかを、「臨床研究中核病院による『Real World Evidence 創出のための取組み(臨中ネット)』データベース構築やPHR(個人による健康データ記録)システムとの連携を含め探求してゆきます(図3)。

診療端末上で動作する自作の体重記録アプリケーション
図3 診療端末上で動作する自作の体重記録アプリケーション
  • 学会発表「肥満症診療に用いる診療端末上の体重グラフアプリにおけるSS-MIX2ストレージデータの利用」第28回日本医療情報学会春季学術集会:
    https://jami2024symp.net/program.html
メンバー

教授     小野啓 https://researchmap.jp/hirakuono

大学院生 博士課程 濱野 陽彩(1年)

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