千葉大学予防医学センター

学会参加報告

2021年アメリカ毒性学会参加報告

2021年3月12日から26日にかけて完全オンディマンド (on demand)で開催されたアメリカ毒性学会研究発表会(Annual Meeting of US Society of Toxicology)を視聴しました。この学会は、毎年世界中から数千人が参加する大きな学会で、さまざまな毒性学の基礎分野から、最近話題となってきた新しい分野まで多くのワークショップ、シンポジウム、特別講演、ポスターセッションなどが開催されます。今年は約6000人が参加し、1000以上の演題が発表されました。

これらの演題の中で、特に胎児期、小児期の環境汚染物質暴露と出生後の健康影響、DOHaD(Developmental Origins of Health and Disease)仮説、近年大きな問題となっているマイクロ・ナノプラスチック問題、パー/ポリフルオロカーボン(PFAS)の毒性などに注目し、発表者からご許可をいただいたスライドについてPDF化し、和訳を付けて紹介します。口演の部分も訳せる部分は訳しましたので、スライドとは異なる部分があります。

環境中に無数の汚染物質が遍満している現在、人が現実にどれくらい暴露され、どのような健康影響があるのかは、感受性の個人差や遺伝的な背景もさまざまであることから正確な評価は困難です。動物や組織などを使った実験も行われていますが、限界も指摘されてきたことから、最近ではマシンラーニング(machine learning)、AI(Artificial Intelligence)などが取り入れられています。また、新しい分析方法が開発され、分析技術もさらに向上しました。科学は常に進化し、止まることがありません。日本の若い研究者の皆さんが、この重要な分野に1人も多く関心を持ってくださり、世界で活躍する機会が増えることを期待しています。先祖から引き継いだ世界を将来の世代に健全な状態で引き渡すのは今を生きる私たちのミッションです。

来年のSOTは2022年3月27日から31日まで、カリフォルニア州サンディエゴにて開催される予定です。

今回、発表スライドの当センターホームページ上での公開にあたり、寛大にもご快諾してくださった発表者の皆様のお名前と所属を以下に紹介します。皆さまも私どもも、将来の世代のためにこの重要な問題に一人も多くの科学者に関心を持ってほしい、という共通の願いを持っていることを感じています。皆様のご協力に心より御礼申し上げます。

また、今回本学会に私を派遣してくださった日本の環境省様にも心より御礼申し上げます。ありがとうございました。
(演題の選択および翻訳は当センター副センター長の戸髙の責任で行ったものであり、必ずしも千葉大学予防医学センターおよび環境省、WHOの方向性を示すものではありません)

千葉大学予防医学センター 副センター長
世界保健機関(World Health Organization)
環境・気候変動と健康部 化学物質安全性チーム
コンサルタント
戸髙恵美子


スライドの共有および和訳添付を許可してくださった皆様(アルファベット順)

Dr. Gerald Ankley, Research Toxicologist, US EPA Office of Research and Development (ORD)
Dr. Emily Brehm, Department of Comparative Biosciences, University of Illinois at Urbana-Champaign
Dr. Rebecca Fry, Carol Remmer Angle Distinguished Professor, Associate Chair, Department of Environmental Sciences and Engineering, University of North Carolina-Chapel Hill
Dr. Kara Lavender Law, Research Professor of Oceanography, Sea Education Association
Dr. Carla Ng, Civil and Environmental Engineering, Environmental and Occupational Health, University of Pittsburgh
Dr. Thaddeus Schug, Health Scientist Administrator, Population Health Branch, NIEHS Division of Extramural Research
Dr. Tammy Stoker, Neurological and Endocrine Toxicology Branch, Public Health and Integrated Toxicology Division, CPHEA/ORD/US EPA
Dr. Rita Strakovsky, Department of Food Science and Human Nutrition, Michigan State University
Dr. Kary E. Thompson, Janssen Pharmaceuticals Inc., Nonclinical Safety

PFAS (Per and Polyfluoroalkyl Substances, パー/ポリフルオロアルキル化合物)

PFAS(「ピーファス」と発音)は、水や油をはじく性質から、食品包装、調理器具、医療・衛生機器、電車や飛行機、車の座席などの生地、泡消火剤など実に広範に使われており、現代社会でその恩恵に浴していない人はいないのではないかと思われるほどである。一方で、その長期残留性は過去数十年間課題になっており、少しでも環境中の残留期間を短くするための製造上の工夫がなされてきた。そのため、現在では数千から数万種類ともいわれるPFAS物質が存在する。しかし、代替品が必ずしも環境や野生生物、ヒトの健康への影響が小さいとは限らない。PFAS類は、製造・使用・廃棄の過程で環境中に流出し、さまざまなところから検出されている。それらによる健康影響はどのようなものがあるのか調べるには、数万種類のPFASのどれを調べるのか、優先順位を付け、適切なリスク評価をしなければならない。優先順位を付けたら、それらによる環境への影響はどのようなものがあるのかを明らかにし、排出源の特定とすみやかな削減、環境中に既に流れ出した物質を処理する方法を考えていかなければならない。

ここでは、3月23日に開催されたSOTとSETAC (Society of Environmental Toxicology and Chemistry) との共催シンポジウム「SETAC-SOT Session: Environmental Risk Assessment of PFAS」(PFASの環境リスク評価)の中から2演題紹介する。(詳細はスライドおよびその和訳を参照してください)

1. アメリカ環境保護庁(US/EPA)のORD (Office of Research and Development)のDr. Gerald Ankleyによる「Assessing the Ecological Risks of PFAS: Challenges and Opportunities (PFASの生態系リスクの評価:挑戦と可能性)」

現在市場に出ているPFAS物質の内、毒性データがある物質は非常に少ない。コスト面で効率的で、知見のギャップを埋められる迅速なアプローチを探すことが必要である。限られたデータしかない場合のリスク評価方法として、「New Approach Methodologies (NAMs = ナムズと発音)」が提案されている。また、このNAMsを活用する際にAOP (Adverse Outcome Pathway) が役に立つ。プレゼンテーションでは、US/EPA/ORDが行っているPFASの生体影響、リスク評価の研究とその応用例を紹介している。たとえば、ECOTOXという、過去30年間に収集されてきた5万以上の参照資料のオープンアクセストゥールや、AOP Wikiという、PFASの生態系へのリスク評価について収集されてきたデータベースの双方向オープンアクセスシステムなどである。

2. University of PittsburghのAssistant Professor、Dr. Carla Ngによる「Current knowledge on Human Health Effects of Per and Polyfluoroalkyl Substances (PFAS), and Tools for Moving Forward (現在のPFASのヒト健康影響についての知見と前に進めていくためのトゥール)」

PFASによる健康影響の可能性は非常に広範である。免疫機能の低下、肝臓、腎臓へのダメージ、生殖への悪影響、思春期の早期化など環境ホルモン的な影響などが疑われている。問題は、これらの影響が、環境への配慮から従来のPFAS類の代替物質として開発されたPFAS類でも可能性が指摘されていることである。代替品がより安全、とは言えない。環境中に存在するPFASは数多いので、毒性を評価するには疫学調査のデータ以外に、動物実験、ハイスループット評価、コンピューターを使った解析などが行われている。また、ヒトの体内に入っていく経路をトランスポーターモデルによって予測した。脳血液関門、母体から胎児への移行などもこのモデルを使って予測できる。研究が進むにつれ、環境中の濃度が低くても検出可能になってきた。現在、PFASの中でPFOA、PFOSについてはガイドラインが設定されているところがあるが、今後はさらに他のPFAS類についても調べ、汚染濃度が高い地域を対象に優先的に排除していくことが重要である。

Current Knowledge on Human Health(slides).pdf
Current Knowledge on Human Health(和訳).pdf
PFAS Ecotoxicology(slides).pdf
PFAS Ecotoxicology(和訳).pdf

マイクロ・ナノプラスチック

プラスチックは現代の生活に欠くことのできない物質である。現代の便利で快適な生活はさまざまな種類のプラスチック製品によるところが大きいことは否定できない。一方で、製造・使用・廃棄の過程で、環境中に流出し地球を汚染していることもすでによく知られているところである。

特に最近、マイクロプラスチック、ナノプラスチックと呼ばれる微小なプラスチックが河川水、海水中に漂い、生物に取り込まれている。これらによる人体への影響が懸念されている。

ここでは、3月22日のワークショップ「Tackling the Potential Human Health Impacts of Microplastics and Nanoplastics: Challenges for Toxicologists in the Assessment of Real-World Complex Mixtures” マイクロプラスチックとナノプラスチックの潜在的な健康影響への取り組み:現実の世界での複合的なプラスチックの影響評価についての毒性学者たちの挑戦」での発表を1演題紹介する。Sea Education AssociationのDr. Kara Lavender Lawによる「What are the risks of global contamination by microplastics & nanoplastics? (マイクロプラスチックとナノプラスチックによる地球的な汚染によるリスクとは?)」である。(詳細はスライドおよびその和訳を参照してください)

プラスチックの生産量は1950年代から急増し、2000年からでも倍に増えている。プラスチックごみが海鳥の体内にいっぱいに詰まっている、という報告があったのは1966年のことである。しかし、2003年に太平洋にプラスチックごみの集まるgarbage patchがあると報告されるまで、海のプラスチックごみ問題は真剣には考えられていなかった。

プラスチックは、様々な化学物質を吸着し、それらが生物に取り込まれる。シーフード、水道水、ペットボトル入りの水、ビールなどからマイクロプラスチックが検出されており、ヒトの便からも検出されている。最近では、ヒトの胎盤から検出されたという報告もある。ただし、それらによる健康影響がどのようなものであるかは不明である。ナノサイズの小ささになった時に環境中でどのような挙動をするか、それらが生体内にどの程度入り込み、どのような化学反応を起こすのかも、未解明な部分が多いので、今後さらに研究が必要である。

What are the risks of microplastics(slides).pdf
What are the risks of microplastics(和訳).pdf

生殖・次世代影響(環境ホルモンなどによる影響)

環境汚染物質による影響は、ヒトのライフステージの中でいつでも同じように影響するわけではない。近年、受精前から胎児期、乳幼児期、そして小児期が、成人後よりも脆弱で影響を受けやすく、しかもその影響が不可逆的である場合が多いことがわかってきた。3月25日、シンポジウム「From Conception to Cane: Unique Life-Stage Considerations for Reproductive Toxicity (受精から杖(をつく年齢)まで:生殖毒性におけるライフステージ特有のリスクについての考察)」が開催された。ここでは、その中から3演題を紹介する。また、3月17日に開かれたシンポジウム「Across the Life Span: Emerging Mechanisms of Prenatal and Transgenerational Toxicity (生涯を通じての影響:出生前から世代を通しての毒性影響について最近わかってきたメカニズム)」の中から1演題紹介する。(詳細はスライドおよびその和訳を参照してください)

1. Janssen Pharmaceuticals Inc. のDr. Kary Thompsonによる「Introduction to Environmental Chemical Exposure during Reproductive Life Span and Sequelae (生殖可能年齢の環境化学物質暴露とその後の健康影響についてのイントロダクション)」

生殖に関する時期には、リスクの高い「窓」が開いているような時期がある、という意味で「ウィンドウ期」と呼ばれる時期がある。暴露の時間は「数時間」から「数日」、影響は「無」から「死」まである。受精前後の暴露は、親の健康だけではなく、次世代の健康にも影響するので、成人期の健康は、実はそれ以前の思春期、幼少期、胎児期、さらにさかのぼって、両親の暴露による影響の結果かもしれない。このプレゼンテーションでは、代表的な環境ホルモンである合成女性ホルモン剤「ジエチルスチルベストロール(DES)」による次世代、次々世代への影響、10万種ともいわれる合成化学物質の生殖毒性のメカニズムをどのように明らかにできるのか、動物実験のデータやハイスループットアッセイなどにより化学物質をグループ化しメカニズムを明らかにするアプローチが紹介されている。Slide 12では、環境ホルモン物質の「影響」の蓄積の可能性についての論文が紹介されている。オスのマウスを使った合成女性ホルモン剤の影響が孫世代により重く出る、という報告である。

2. Michigan State University, Department of Food Science and Human NutritionのAssistant ProfessorであるDr. Rita Strakovskyによる「Endocrine disrupting chemicals in pregnant women and potential modifying factors (妊婦の環境ホルモン暴露と健康影響を変化させる可能性のある要素)」

妊娠は次世代を生み出すこと、女性にのみ起こる、という点で特殊である。妊娠は次世代の健康と、女性の健康の両方に大きな影響を与える。Developmental Origins of Health and Disease (DOHaD)仮説(妊娠中の栄養や環境汚染物質暴露が子どもの出生後、成人後の健康に影響を与える)は近年しばしば話題に上るようになってきた。このプレゼンテーションでは、イリノイ州での720組の母児コホート調査で、環境ホルモンの中でもパーソナルケア製品から暴露する機会の多いフタル酸類とパラベンの妊娠中暴露と、母親の栄養状態について調べた結果を報告した。これまでの疫学調査からは、フタル酸類とパラベンは、早産、母親のグルコース代謝を変える、子どもの行動や認知機能、呼吸器系に悪影響を与える、あるいは肥満につながる、などといった報告がある。このコホート調査では、妊婦から妊娠中5回の尿サンプルの提供を受け、尿中のフタル酸とパラベン類を測定した。これらの物質が女性ホルモンに与える影響を調べるため、尿中のエストロゲン濃度も測定した。血液を採取するよりも簡単なので、尿は女性ホルモンを測定するにも有用である。調査の結果、妊娠中のフタル酸濃度は、妊婦が肥満で胎児が女児の場合に母体中のエストロゲン濃度を上昇させることが明らかになった。パラベンは、胎児が女児の場合のみ、以下の影響が見られた。体重低下、短い体長、体重:体長比の低下、BMIの低下、妊娠期間の短縮化。一方、母親の妊娠中の栄養については、対象となった人口は高学歴、比較的裕福な集団であったが、栄養の質はあまりよくなかった。妊娠初期の栄養の質が良いと妊娠期間が延びたが、妊娠後期の栄養では違いは見られなかった。

3. US EPA/ORD (アメリカ環境保護庁 研究・開発オフィス)のDr. Tammy Stokerによる「Case Study of Atrazine as an Endocrine-Disrupting Chemicals: Timing is Everything (環境ホルモンとしての農薬アトラジンのケーススタディ:タイミングがすべて)」

人の一生を通じて、環境汚染物質から健康への悪影響を受ける感受性の高い時期がある。出生前、新生児期、思春期、成人、高齢期にそれぞれ特有の感受性がある。このプレゼンテーションでは、環境ホルモンの一つである農薬のアトラジンの影響について動物実験の結果を報告する。新生児期に母親が暴露すると、搾乳刺激によって放出されるプロラクチン濃度を低下させ、母乳中に含まれるホルモンに変化があった。オスの仔の場合、出生後120日前後で前立腺炎を起こした。思春期の暴露で、その後の生殖に異常が見られた。成長後の暴露は、発情周期に変化を起こした。メスでは、発情周期が早まったり遅くなったりする可能性がある。また、乳腺癌を発症させる可能性があった。今回は動物実験の結果であるが、これらの影響がヒトでどうなるのかを注視する必要がある。

4. University of Illinois at Urbana-Champaign, Department of Comparative BiosciencesのProfessor Emily Brehmによる「Perinatal Exposure to an Environmentally Relevant Phthalate Mixture Accelerates Biomarkers of Reproductive Aging in a Multigenerational and Transgenerational Manner in Female Mice(周産期フタル酸暴露がメスのマウスの複数世代、経世代に生殖の老化を促進させることを見つけるバイオマーカーについて)」

フタル酸類は日常生活で使われるさまざまな製品に使われており、人は日常的に呼吸、摂取、皮膚接触暴露をしている。フタル酸類は環境ホルモンとして知られ、男性(オス)では精子の質の悪化、包皮分離の遅延、肛門生殖器間距離の短縮化(テストステロン分泌量の低下を示す)など、女性(メス)では原始卵胞細胞の発生早期化、性周期の乱れ、卵巣ステロイド生産の遅延などが報告されている。フタル酸は女性(メス)において生殖年齢を老化させるのではないかという報告がある。しかし、周産期(perinatal)のフタル酸暴露が生殖の老化に影響しているかはほとんど調べられていない。またこれらの影響が経世代的に影響するかは調べられていない。ネズミを使った実験で、周産期のフタル酸暴露は F3世代において非発情期の期間を長くすることが示唆された。また、卵胞生成を変化させ、げっ歯類では卵巣のう胞を増加させ、HPG軸のホルモン調節を乱す。メスの周産期のフタル酸暴露は次世代、さらに次の世代の生殖を老化させ、不妊を増やす可能性がある。

Atrazine USEPA(slides).pdf
Atrazine USEPA(和訳).pdf
EDCs in pregnant women(slides).pdf
EDCs in pregnant women(和訳).pdf
Intro to Environmental Chemical Exposure(slides).pdf
Intro to Environmental Chemical Exposure(和訳).pdf
Perinatal exposure to phthalate(slides).pdf
Perinatal exposure to phthalate(和訳).pdf

胎盤の次世代への影響

胎盤は、母体側の組織と胎児側の組織とで構成されている。母体側と胎児側の代謝物質交換、ガス交換、ホルモン産生などにより妊娠を維持する重要な臓器である。女性の一生の中で妊娠時期にのみ発生し、出産後は子宮からはがれて体外に娩出され、通常は廃棄される。日本では、かつて貴族や大名家で胎児を育てる神秘的な臓器として「胞衣(えな)塚」を作って祭っていた時代もあった。妊娠中にのみ発生する臓器であるためこれまで研究が進んでこなかったが、実は考えられていた以上に重要な役割を母児双方に対して果たしていることがわかってきて、注目されている。ここでは、胎盤による母親、胎児双方への健康影響について研究された二つの発表を紹介する。3月15日に開催されたシンポジウム「Environmental Influences on Placental Origins of Development(胎盤由来の発達への環境影響)」でのアメリカ国立衛生研究所環境健康科学研究所(NIH/NIEHS)のDr. Schugによる「Environmental Influences on Placental Origins of Development」と、3月22日に開催されたTranslational Impact Award Lecture (橋渡し研究インパクト賞受賞講演)、 Dr. Rebecca Fryによる“The Placenta”である。(詳細はスライドおよびその和訳を参照してください)

1. NIH/NIEHSのDr. Schugによる「Environmental Influences on Placental Origins of Development (e-POD)」

胎盤は、胎児が発生・発達していくうえで非常に重要な臓器であるにもかかわらず研究が進んでいない。胎児への健康影響はもちろん、母親の健康にも影響している。この、未解明の臓器と次世代影響についての研究を進めるため、NIEHSは2014年からe-POD(イーポッドと発音) Programで親子を対象としたコホート調査と基礎研究をともに行うプログラムに研究補助金を出してきた。これまでの研究成果についての報告が紹介された。

2. University of North Carolina-Chapel Hill のProfessor Rebecca Fryによる “The Placenta: A Recorder and Transducer of Environmental Toxics (胎盤:環境中の有害物質を記録し、変換する臓器)”

ヒ素、カドミウム、PFASを例に、環境汚染物質が胎盤の正常な機能を阻害するメカニズムを解明しようとしている。
ヒ素暴露と低出生体重との関連を、受精前のヒ素暴露が、次世代の遺伝子の表現型に影響を与えているのではないか、という疑問に取り組んだ。胎盤中の細胞がヒ素に暴露されると、遺伝子の発現を変えてホルモンのシグナルを乱し、胎盤の働きを傷つける、と報告している。
カドミウムは子癇前症との関連が疑われている。ただし、セレン、亜鉛などの必須元素の濃度が高ければリスクは低くなる傾向がある。カドミウム暴露により、TGF-β(トランスフォーミング増殖因子)の表現型が乱される。胎盤の細胞は癌細胞のように母体に浸潤していくことで完成するが、カドミウムはTGF-βを乱すことでこの浸潤を阻害するのではないか。
PFASは米国各地で汚染が問題になっている。妊娠中のPFAS暴露は低出生体重、妊娠高血圧症、子癇前症などさまざまな有害な影響が報告されている。妊娠初期に、胎盤の細胞が移動して母体に浸潤することで胎児に必要な動脈を形成するが、対象とした3種類のPFASはいずれも胎盤細胞の移動を阻害した。
環境汚染物質による胎盤への健康影響のメカニズムを明らかにし、予防につなげていかねばならない。

ePOD(NIEHS)(slides).pdf
ePOD (NIEHS)(和訳).pdf
The Placenta(slides).pdf
The Placenta(和訳).pdf

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