千葉大学予防医学センター

学会参加報告

Healthy Buildings 2021 Europe 学会参加報告

Healthy Buildings 2021 Europe

Healthy Buildings 2021 Europe(online)に参加して
HEALTHY BUILDINGS 2021 Europe conference homepage (hb2021-europe.org)

Healthy Buildings 2021 とは

“Healthy Buildings(HB)”は国際的な室内環境に関する学会であるISIAQ(国際室内空気質学会)がオーガナイズする国際集会で “Indoor Air”と交互に2年に1度開催されている。2021年度はHB_Europeとしてノルウェーのオスロ(オスロメトロポリタン大学)で6月21日から23日の3日間オンラインにて開催された。2021年度はさらにHB_Americaとしてアメリカ・ハワイでも11月に対面、オンラインの2方法での開催が予定されている。

Healthy Building – Bridging the Gap Between Research & Practice (hb2021-america.org)

テーマ:Indoor Environment – From Science to Practice!(室内環境―科学から実践へ!)

HB_Europe2021は包括的テーマとして「曝露」「発生源対策/曝露低減」「測定方法/センサー技術」「建物・HVAC(換気・空調システム)の設計、運用」「脱炭素化」と「政策、規制、コンプライアンス」が取り上げられ、次の4つの重要なDを含む数多くのトピックが議論された。1. Digitization (デジタル化) 2. Decarbonization (脱炭素化) 3. Dwellings (住居) 4. Diseases (疾患)。上記のDのうち特に「疾患」については人が室内にいる時間が長くなり複数の汚染源や微生物にさらされるようになったこと、新型コロナ感染症(COVID-19)などの感染症の拡大は、建物内での呼吸器系疾患の感染に関する知識の不足が露呈した、ということで、そのための対策、室内環境や換気/空調システムができること、あるいはポストコロナにおける建物で果たす役割などが取り上げられた。

内容について

今集会では、これまでも検討されてきたVOC等の化学物質の影響の実際と健康影響、測定、分析方法、温熱環境などの検討が多く、特に「Indoor environment and symptoms」のセッションでは、ノルウェーやスウェーデンの研究者たちから非特異的な建物関連症状について、実際に症状は存在するが、曝露と健康影響への科学的裏付けがないものを「環境因子に関連した症状“Symptoms Associated with Environmental Factors”(SAEF)」といった新しい概念として打ち出してきた。これまでも同様のことは言われてきたが、さらに予防、治療、および学際的なアプローチの必要性と、現象のさらなる理解を可能にする必要があると思われた。

また特徴的に多かったトピックはやはりCOVID-19や呼吸器感染症に関わる空気質と清浄化のための換気システムであった。COVID-19についてはWHOも飛沫感染および接触感染に加えて「飛沫核感染の可能性もある」としているが、今集会では空気中のエアロゾル感染を防ぐために、エアロゾルの動態の可視化あるいは計測のシステム(calculator)についてなどの興味深い発表が多くみられた。2021年5月に「サイエンス」に掲載されたオーストラリアのリディア・モラウスカ教授らによる論文「A paradigm shift to combat indoor respiratory infection」では「建物の中の空気をきれいにし、病原菌の数を大幅に減らしてそこに住む人が健康であるための基盤を確立することが必要である」ことが訴えられている。今年度のHBにおいても1日目のプレナリーセッション「COVIDと換気」で「どのようにして今後の呼吸器感染症を軽減させることができるか」の講演があって後、室内空気質や環境質と換気システムについてのワークショップやセミナーが行われ、それ以降も感染症などを少なくするための換気システムについては多くのセッションが持たれた。

最後に

室内環境においてVOCをはじめとする空気中の化学物質や環境の健康影響に関する研究や調査を続けてきた私たちのチームでは、ヒトの症状発現を客観的評価でとらえることについて検討を続けてきましたが、SAEFといった概念についても今後検討していけたらと思いました。また、呼吸器感染症の感染に関しては「室内環境要因」が大きいことを確認し、換気システムの改善、整備についての検討や調査と啓発が必要だと感じています。

今年度のHB集会はオンラインという形がとられ、現地に行かなくてもたくさんの講演、セッション、ワークショップに参加ができてよかったと思います。ただ、時差が大きく、日本での活動時間ではなかったため、職場で少し聴いて、自宅に戻ってからまた聴いたりと、参加が難しかった時間帯がありました。また、すべてがリアルタイムでの開催でしたので、同時に行われているセッションは部屋を行ったり来たりする、あるいは一つを選択しなければならず(もちろん現地での対面での集会はそうですが)、出来ればオンデマンド方式にしていただければもう少ししっかり参加できたのに、と残念でした。それでも、リアルタイムならでのインタラクティブなやり取りを聞くことができましたし、講演前の講演者の雑談までも聞くことができ、楽しかったです。

来年度はIndoor Airがフィンランドで開催されますが、どのような形での開催になるにせよ、新しい情報が得られることを楽しみにしています。

Indoor Air 2022 – Indoor Air 2022

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